コラム:生駒谷の七モリの伝承


各集落にある七つのモリ

モリさん(萩原町)

 モリを神聖視する信仰は、原始的な民間信仰として日本全国で見られますが、それぞれの集落に七つずつモリが存在するという事例は、あまり類を見ません。

 モリにはいくつかの形があります。樹林だけが生い茂っているモリが、本来の姿だったと考えられ、年輪を重ねた巨樹やうっそうと茂る樹林には神秘的な雰囲気が漂い、そこに神が宿ると信じられてきました。そのほかには、樹林と石造仏や社などが祀られているモリもあります。

 萩原は信仰心の旺盛な土地柄で、往馬大社の神事を司る「宮座」が今も継承されています。この地では七モリもよく保存されており、生駒市教育委員会はモリに「保護樹林」の表示板を立てて、保護を呼びかけています。

七モリにまつわる伝承

モリさん(西菜畑町)

 モリの木を伐ると激しい祟りを受けると信じられていて、小枝一本折ってもいけない、枯葉一枚持ち帰ってもいけない、と禁じられてきました。戦時中に燃料が不足したときも、モリの樹には手をつけなかったそうです。禁忌を犯したために、恐ろしい祟りを受けたという体験談が、今も語り継がれています。

 一方で、モリの多くは集落を取り囲むような位置に祀られており、外から疫病神などの邪悪なものが入ってこないように、集落を守ってくれる守護神の役目もありました。村境にあるモリでは、「カンジョウ縄」を掛けて結界する行事を行っていたところもありました。


モリ信仰から学ぶこと

モリさん(萩の台)

 生駒で民俗学を研究しておられる生駒民俗会会長今木義法先生から、「モリさん」から学ぶことを教えていただきました。

 ~~先人たちが、モリのカミを畏敬し、厳しい禁忌を守ってきた信仰があって、その結果として、今の生駒の緑豊かな景観が守られてきたのです。こうしたモリ(自然)への畏敬の念を忘れてはならないと思います。

 往馬大社の社そう林は見事な原生林ですが、これは人間が手を加えて守ってきたのではなく、「手を加えなかったから守られてきた」のです。

 急激に都市化されてしまい、モリのいくつかが消滅してしまいました。「モリを失ったことにより、自然を大切に守る豊かな心をも失ってしまった」のではないかと心配しています。

 景観を考える上でも、まちの歴史と文化を大切にする心を養い、自然への畏敬の念を根底に据えることが大切だと思います。~~

参考図書


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